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「おい、綾、どうした?」
珍しく兄貴風を吹かしてドア越しに声をかけたが、返事はなかった。まぁ、鍵もかかっていないし……。
「おい、綾。大丈夫か?」
開けると、カーテンが閉め切られていたため、夕暮れ時だというのに部屋は真っ暗で、ランドセルも床に投げ出されていた。部屋を見渡し、一瞬居ないかとも思ったが、よく見たらベッドが盛り上がっているじゃあないか。
「おい、どうした。兄ちゃんに言ってみ」
ベッドの端に腰掛け、布団越しに綾の頭だか尻だか分らない部分をぽんぽんと叩く。枕側だから多分頭だろう。
「お兄ちゃん……ひっく。あのね……」
放課後、誰もいない教室で先生が怖い顔で迫ってきた。訳が分からず固まっていると、よく分からない事を言われながら体中を撫でまわされた。さらに、ほっぺたを舐められたり、キスまでされとても気持ちが悪かった。最終的に、パンツ越しに股を指で触られたところで先生の手を振りほどいて逃げ帰った。
泣きじゃくる綾の話をまとめるとそういう事らしい。もう少し簡単にまとめると「ロリコン変態教師に襲われた」という事だ。
……許せん。俺の可愛い妹を泣かせた事は良い。泣き顔も可愛いからな。しかし、俺も未だ触った事のない未知の領域を俺より先に侵そうとしたこのロリコンは許すわけにはいかない。これは制裁が必要だろう。
「なぁ、綾。明日さ、俺が綾の代わりに綾の体で学校に行ってやるよ。そんで、そいつにビシッと言ってやるから、もう泣くなよ。」
何故そんな事が出来るのかは割愛する。今重要なのはその能力の存在理由などではなく、その教師をどうするかだ。覚悟しろ変態教師。貴様のようなロリコンはこの俺が社会的に抹殺してみせる!
無難に授業をこなしつつ放課後を待つ。綾の友達との接し方にかなり悩んだが、適当にアニメの話をしてなんとかやり過ごせた。オタクで良かったというものだ。
「綾ちゃん、普段アニメの話全然しないから嫌いなんだと思ってたー」
………………。俺は綾よりアニメ見まくってるのか……。ちょっと考えたくなる事実だな。まぁ、減らす気はないが。
ようやく放課後。俺はまだ用事がある風を装い教室に残った。窓際の席から校庭を見下ろし、帰り行く生徒達を眺めていたが、ただぼーっとしてるのも不自然だと思い、ノートに向かって鉛筆を走らせる事にした。
……うむ、我ながら可愛いキャラクターが書けた。
「やぁ、綾ちゃん。絵が上手だね」
しまった。絵に夢中になってて気付かなかった。いつのまに真後ろに立たれていたんだ? 振り向いた先に居たのは、にこにことした顔で立っている綾の担任だった。単に心配して声をかけて来たのか? それとも、こいつが例の……?
「昨日は変な事をして悪かったね。怖かったかい?」
ビンゴだ。なるほど、そりゃあこんなオッサンに迫られたら泣きたくもなるというものだ。綾のためにも計画通りにコイツを抹殺してやるぜ。
「……なんであんな事したんですか?」
うむ。我ながら迫真の演技だ。完璧に綾という乙女を演じきっている。これなら、コイツも疑わずに口を滑らせるだろう。
「ゴメンね。綾ちゃんがあんまり可愛かったからつい……。怒ってるかい?」
「いきなり変な事されて、怖かったです……」
「うん、本当にゴメンね。先生悪かったよ。でも、本当に綾ちゃんが可愛いから我慢出来なかったんだよ」
言いながら手が肩に乗ってきている。うむ、こいつは全く反省していない。
「だから、先生の気持ちも分かってくれるだろう? 綾ちゃんは優しい子だからね」
「え、な、なにするんですか? 先生?」
「昨日の続きだよ。大丈夫、本当に怖くないから。ほら」
「や、パンツ脱がさないでくださいっ」
「大丈夫大丈夫。先生を信用して、ほら……」
……なんて簡単に口を滑らすんだ。まぁ、こっちは楽でいいが……。
ともかく、もう充分だな。これ以上コイツを調子に乗らせても面白くもなんともない。そろそろ反撃といこう。
「……ウゼェよ。このロリコン」
「……え? ど、どうしたの、綾ちゃん?」
パンツを脱がそうとする手の動きがぴたりと止まった。その隙に三歩下がり、充分な距離を取った。
「ウゼェつってんの。何脱がそうとしてんだよ、この犯罪者。大人の女に構ってもらえないんだろーけど、あたしだってあんたなんか無いわ」
「え? え?」
「だいたい何、そんな股間膨らませて。あたしにソーニュー出来ると思ってるわけ? 確かにそのサイズなら入っちゃうかも知んないけどさwww」
「あ、あやちゃん?」
「いっつも大人しくしてるからって調子乗りすぎ。校長にチクっても良いんだからね?」
「え、あ、う……。し、証拠もないのに信用するわけ無いだろう!」
おーおー。やっぱり言うと思った。予想通り過ぎてたまらないわ。まさに「計画通り」ってやつだ。
「……まり可愛かったからつい……。怒ってるかい?」
「いきなり変な事されて、怖かったです……」
「うん、本当にゴメンね。先生悪かったよ。でも、本当に綾ちゃんが可愛いから我慢出来なかったんだよ。だから、先生の気持ちも分かってくれるだろう? 綾ちゃんは優しい子だからね」
「え、な、なにするんですか? 先生?」
「昨日の続きだよ。大丈夫、本当に怖くないから。ほら」
「や、パンツ脱がさないでくださいっ」
「大丈夫大丈夫。先生を信用して、ほら……」
「え? あ……。う……」
「今どき子供でもICレコーダーくらい使えるわよ。馬鹿にしすぎ。さ、どうするの? 証拠はあるけど信用してもらえないかしら?w」
なんと言って良いのか分からないのか、言葉も発さずに冷や汗を額に浮かべている。さっきまで調子に乗っていたコイツの姿を思い出すと、ギャップが実にたまらない。
さて、これで目的は果たせたわけだ。じゃ、後はこれを校長のところに持って行けば任務完……。
「た、頼む! 許してくれ!」
うぉっ。突然目の前で土下座されてビビッた。いや、何かしら行動に出てくると考えてはいたが、大の大人がこんな子供相手にいきなり土下座をしてくるとは。まぁ、何をされたところで、こいつを社会的に抹殺するという目的が変わる事は……待てよ。
ふむ。この状況はアレか。コイツは俺に逆らえないわけだ。それはなかなか面白いかもしれない。ちょっと余計な行動だが、コイツを使って少し遊んでやるか。
「センセー、土下座すれば許してもらえると思ってるの?」
「…………わ、分かった。何でもす……」
「何、その偉そうな言い方? 『分かりました』でしょ? 言い直しなさいよ」
「わ、分かりました。何でも言う事を聞くので許して下さい……」
うぉ。なんかゾクッとした。何かに目覚めそうだわ。っていうかよくこんなセリフすらっと出てきたなぁ、俺。もしかしてそういう才能でもあるのか?
そんな事を考えながらどかっと音を立ててイスに座り、足を教師の前に突き出した。
「じゃあさ。とりあえず……靴下脱がせてくれる?」
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