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とは言っても、床に転がるゴミや本の山を部屋から押し出しただけだが。
それでも、僅かの間に部屋の真ん中にぽっかりと空いた空間を作り出したのは、啓介の裸への情熱のたまものと言えるだろう。
誠はそんな啓介の行動力に半ば呆れながらも、自分が脱がなきゃ収まらないのだろうなあ、と肩を落とした。
「まだ三十分、か……」
あわよくば時間切れを待ちたかった誠だったが、時計を見て軽く絶望する。この状況で二時間半も粘れるわけがない、と。
それならばいっそ開き直って、啓介を納得させた方が良いかもしれない。そう考えた誠は、意を決して啓介に裸をさらす事に決めた。
「おし、じゃあ脱ぐぞ」
誠は、部屋の真ん中でTシャツを一気にめくった。が、直後に啓介から激しいダメ出しがされた。
「あー、おい、何考えたんだよ! そんな恥じらいのない脱ぎ方があるか! 『あ、あんまり見ないで……』くらい言いながら、しとやかに脱ぐんだよ!」
あいた口を閉じるのも忘れ、誠は蔑むような目で啓介を見詰めた。
そんな三文芝居やってられるか、というのが誠の正直な気持であった。
「……そんな三文芝居、やってられるか!」
誠は正直な気持ちを啓介にぶつけると、啓介の部屋を後にしようと、ドタドタと足音を立てながら玄関に向かって行った。
「お、おい、ちょっと待てよ、誠!」
そんな事を言われても誠は待つつもりはない。後二時間半も経てば自然に体が戻るのだ。
それなら、家にでも帰って大人しくしているのが一番だ。
「待てって、誠! お前、そんな恰好で外歩くつもりかよ!」
啓介の言葉に誠が疑問を抱く。
自分がよっぽど変な格好をしているのかと思い、体をひねって見回すが、変な所など見当たらない。
確かに服装は男ものだが、世間を見ればそんな女はざらにいる。別段特異な目で見られる事など無いだろう。
「……なんだよ、別にどこもおかしくないだろ」
いくら調べても分からない誠は、眉をひそめ、怪訝そうに啓介に不満を漏らした。
「あー。もう、洗面所で鏡見て来いよ。その……ち、乳首が……」
その言葉を言われて、ようやく誠ははっとする。自分の胸元を見下ろしてみれば、確かに、膨らんだ胸の中央部分で突起が存在を主張している。
女性化して胸囲が大幅に上がってしまったせいで、Tシャツが引っ張られ、結果として表面に乳首が浮き出してしまっているのだ。
「あっ! ちょっ……!」
何故だか知らないが誠は急に恥ずかしくなり、咄嗟に胸元に手を持っていって啓介からその突起が見えないように隠した。
同時に、啓介があれほど目線を合わせない最大の理由がようやく理解出来た。この突起が啓介の視界に入り続けていたという事なのだ。
「おま……知ってたんなら教えろよ」
「あ、いや、ごめん。でも、流石にそんな恰好じゃ外は歩けないだろ?」
確かに啓介の言うとおりだ。
これを隠すためには、このくそ暑い季節にジャケットでも着て歩くか、ひたすら胸の前で腕を組んで歩くかしかない。
そして、そんな事をしたら、通行人から奇異の目で見られるのは明らかだ。
「ほら、分かったら諦めてさ、素直に続きやろうぜ」
啓介に言われて、誠はしぶしぶと部屋に戻った。
誠は、見知らぬ人たちに奇異の目で見られる事よりも、啓介の機嫌を損ねずに二時間半やり過ごす選択を決めたのだった。
「あ、そうだ。さっきの胸隠したあの動作。可愛かったぜw」
「やかましい!」
啓介が言い終わるが早いか、誠は勢いよくスネを蹴り上げた。
床に倒れ込み痛みに悶える啓介を見ながら誠は叫んだが、それは、怒りではなく照れ隠しによるものだった。
咄嗟とはいえ、女みたいな行動をとった自分への――。
「さて、というわけで、改めて脱いでもらいたいわけだが」
「くだらん演技ならしないぞ」
「演技じゃなくて良いよ。さっきみたいに可愛く……」
誠に鋭く睨まれた啓介は、最後まで言い切る事なく言葉を濁した。
この辺でようやく啓介もその言葉が禁句なのだと理解した。
「んしょっと……。あんま脱いでるとこ見んなよ」
「良いじゃんどうせこれから裸見せてもらうんだから。しかしトランクスって色気ねぇなあ」
「いやいや、ここで俺が女物の下着履いてたら変態だろうが」
「ま、そうだけど。でも、見た目的には今の方がよっぽど変態っぽいぜ」
「うるせーなぁ。良いから黙って待ってろ」
そう言いながら脱いでいる誠の姿からは、微塵も恥じらいは感じられない。
誠自身、恥じらいなど一切感じていなかった。
しかし、だからこそ、さっきの女みたいな自分の行動が、自分でも理解できず、少なからず困惑していた。
裸になると、女らしさが一層顕著に感じられた。
かなりのボリュームがあるのに、垂れ下がる事無く見るからに張りの強さを感じさせる胸。
男だった事はそれなりに割れていた腹筋は見る影もなく、代わりに腰のくびれが目に入るようになった。
骨盤の形から違っているのか、太ももは確実に男だった時より太くなっているのに、ももの間には隙間が出来ており、そこから後ろの景色を覗く事が出来た。
その太ももも、ごつごつとした筋肉の硬さは感じられず、少し体を動かすだけで小さく震え、触らなくとも柔らかさを感じ取る事が出来た。
「さて、とりあえずこうして裸になったわけだが……何か感想は?」
「触って良い?」
「見るだけの約束だろうが!」
いきなり伸びてきたルール違反の腕をつねり上げる。
「いててて! なんだよ。さっきは揉ませてくれたじゃんかよ」
「さっきはさっきだ。ちゃんと約束は守れ。」
さっきの逆ギレの件もあり、啓介を調子の乗らせるとどうなるか分からないという不安が誠にはあった。
だからこそ適度な距離を保ち、無難に残り時間をやりすごそうと考えての行動だった。
「ちっ、仕方ねぇなあ。ポーズくらいは言う事聞いてくれるんだろうな?」
あまりダメ出しし過ぎてもまたダメだろう。この面倒くさい男は。そんな事を考えながら、誠は啓介の提案をしぶしぶと受け入れ、首を縦に振った。
「おし、じゃあどうするかなあ。やっぱ基本はM字開脚か」
最初っから飛ばし過ぎだ、と誠は突っ込みたくなったが、とっとと満足してもらって終わるなら悪くないと考え、素直に従う事にした。
「ったく、分かりやすい奴だな……」
そう言いながら誠は床に尻を付いて足を広げた。
それと同時に、素早く啓介が足の間に入り込んできた。
啓介の鼻息が股間に当たる。その感触にくすぐったさを覚え身をよじると、その動作に興奮したのか、啓介は更に鼻息を荒くした。
「ちょ……。あんまり興奮すんなよ、恥ずかしい」
自分に対して啓介が興奮しているという事実に、誠は妙な高揚を感じていた。
啓介を夢中にするだけの魅力が今の自分には存在する。そう思うと、誠は優越感を感じずにはいられなかった。
「変なにおいだなぁ。ここ」
啓介の呟きに、不意に恥ずかしさを覚え、誠は顔を赤らめた。
「何嗅いでんだよ! 見るだけっつったろうが!」
軽く苛立ちを覚え、啓介の顔を股間から引き離そうとするが、そこに啓介が口をはさんできた。
「においがするんだから仕方ないだろうが。文句があるなら先に洗っとけよ」
「そんな時間なかっただろうが! いいから嗅ぐな……!」
「それは無いだろー。においの事はもう言わないから、ちゃんと見させてくれよ」
言わないだけで嗅ぐのか。そう突っ込みを入れたかった誠だったが、これ以上言いあっても埒があかないと思い、ぐっと我慢した。
何がどうなろうとも、後二時間とちょっとの辛抱だ、と。
「初めて見たけど、変な見た目だよなぁ。こんなでっかい穴が開いてて……、その上の小さい突起がクリトリス?」
「知らねえよ。黙って見てろ!」
啓介から「見えにくい」というリクエストがあったため、誠は股の間に手を入れ、見えやすいように左右にヒダを引っ張っていた。そしてそれが、誠の羞恥心を相当に増進させていた。
しかし同時に、そのポーズが啓介を夢中にさせているという事実に、誠はより一層の高揚感を覚えていた。
「なぁ、啓介……」
誠自身、何故そんなことを口走ってしまったのか良く分からなかった。ただ、自分の体の中に沸いた高揚感を抑えられなかった事だけは確かだ。
「ちょっとなら……触っても良いぜ……」
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