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喫茶ま・ろんど

TSFというやや特殊なジャンルのお話を書くのを主目的としたブログです。18禁ですのでご注意を。物語は全てフィクションですが、ノンフィクションだったら良いなぁと常に考えております。転載その他の二次利用を希望する方は、メールにてご相談ください。

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ゆでたまっ!六個目 風邪の度に這うのか1

 雪こそはもう降らないだろうが、まだコートを脱ぐと風の冷たさに身が縮まる、春の近い日のことだった。
 学校帰りの二人は、いつものように誰かに見られたら人生ごと終わりそうなやり取りをしつつ帰路を進んでいた。
 その、夕陽を背負ったいつもと変わらない風景に変化が生じたのは、耕也の家まであと五百メートル程という所にある交差点での事だった。
「それじゃあ、またね」
「ん? 帰るのか?」
 予想外の彰の一言に耕也が目を丸くする。
「後で行くよ。ちょっと用事があってさ」
 そう言う彰の表情は、少しだけ気まずそうだ。
「何だよ。用事って」
「あはは。携帯水没させちゃってさ。ついでだから機種変しようと思ってね」
「水没って……何やらかしたんだ?」
 耕也が不用意に会話を広げる。
「こんな往来でそんな質問するなんて……。耕也のエ・ロ・ス☆」
「じゃ、また後でな」
 そして即座に会話を締める。と同時に踵を返し、耕也は自宅に向かって歩を進めた。
「あれ、理由聞きたくないの?」
「もう充分だ。卵といい携帯といい、適度なサイズのものは入れてみんと気が済まんのか、お前は」
「どこに?」
「……は?」
「『入れてみる』って。どこに?」
「………………」
「ほら。恥ずかしがらずに言ってごらんよ。その口からあの卑猥な言葉を。ほら。ほら。ほらほらほら。言えないのかい? 言えないなら僕の口から言ってあげるよ! 耕也は想像したんだろう。僕が携帯電話を自分のマンぶべが!」
 彰の首に耕也の右手がかかる。と同時に、耕也はそのまま彰の身体を持ち上げた。
 彰は足をプラプラとさせ、どうする事も出来ずにぐうぐうと唸った。
「こんな道端でそんな話をしたがるなんて。はっはっはっ。まったく彰はえ・ろ・す☆だなぁ」
 彰の体重が軽いとはいえ、それを片手で持ち上げつつ朗らかに笑う辺り、耕也の力は相当なものだ。
 やがて、彰の顔色が赤色から土気色に変わった辺りで、耕也は危険を感じてその手を離した。
「げふ……し、死ぬかと思った」
「そんな楽には殺さんから安心しておけ」
「酷いよぅ。そもそもは耕也が勘違いで勝手な妄想をしたんじゃないか」
「勝手な妄想? じゃあ違うのか?」
「当たり前だよ。僕だってそこまで馬鹿じゃないよう」
 彰が頬をぷぅと膨らませる。
「む、そ、そうだったか、それはすまなかった」
 その姿に、自分の早とちりを反省し、耕也は素直に謝る。
「全くだよ。僕だってコンドームくらい装着するよ。まさかそれが破れるとは思いもしなかっ」
 往来での不穏当な発言に、耕也の腕がうなった。用事があって、その時ようやく追いつこうとしていた小春は後に語る。
「ラリアットというのでしょうか。それともアックスボンバー? 詳しくは分かりませんが、とにかく、あの時の耕也様の一撃は、とても美しいものでした。彰さんは『ぐげん!』という声をあげたかと思うと、その身体が二メートル近くも後ろに吹き飛んで……。弧を描く彰さんの頭の動きが実に強く印象に残っております」
 と。
 耕也の一撃は、普段に比べて格別強いものではなかった。だからこそ、彰の受けたダメージも、それ程大きくなるはずはなかった。
「あ、彰、生きてるかー!?」
 吹っ飛んだ先が川でなければ。
 川は、決して深くは無いが、しかし小柄な彰の全身を浸すには充分すぎる水量を湛えていた。



「三十八度六分……」
 シンプルな学習机には辞書が何種類も並び、そのすぐ脇にある耕也の身長より高い本棚には、漫画本と文庫本が半々の割合で並べられている。花柄の布団カバーが掛けられたベッド脇にある、自称恋人の特大ポスター以外はごくごく平凡な部屋で、体温計を見ながら耕也が重々しく呟く。目の前のベッドには、パジャマに着替えた彰が虚ろな顔で横になっている。
「あだまいだい……。鼻水どまんない……。鼻の穴も下の穴もヌルヌルで死にぞう……」
 鼻声で彰も弱々しく呟く。余計な一言から察する限りはまだ余裕がありそうだ。
「下がヌルヌルで死ぬなら彰さんは何千回死んでいるのか、気になりますわね」
 小春は洗面器に浸されている濡れタオルを絞り、丁寧に畳んで、そっと彰の額に乗せる。
「うぅ……鼻水ってローションがわりになるのがなぁ」
「試したら縁を切るぞ、それは」
 耕也は、体温計のスイッチを切り、それをケースにしまう。
「試ざないよう。ごんな頭が痛いのに、ぞんな元気あるわけないじゃん」
 言葉の裏に秘められた、頭痛がなければ試すという事実には、耕也も小春も敢えて触れようとはしなかった。
「まあ、ともかく今日はゆっくり寝てろ。看病だけはしてやるから」
 自分のせいであるという負い目を持つ耕也は、いつもなら有り得ない、優しい言葉をかける。それに対して当然のように彰はつけ上がる。
「ありがとう。じゃあ、下だけで良いからとりあえず脱いで。耕也の体温計を僕の口に咥えさせてくれるかい」
 その言葉を耕也は聞かなかった。彰が言い終わるよりも早く、部屋を出ていたのだ。
 数分後、耕也が、洗面器の水を入れ替えて戻ってきた。
「随分ぬるくなってたからな。これで安心だな」
「うう、ありがとう……」
 事前に察知され発言をスルーされた彰は、言い直す気力もなく、珍しく素直に礼だけを言った。
 彰の発言をしっかりと聞いていた小春だけが、耕也の後ろから彰に同情の眼差しを送っていた。

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