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チャイムが鳴ると同時に、荷物をまとめて席を立つ。
しかし…。
「おい、キヨ」
この声は……トシアキだ。
トシアキは、俺の親友と呼べる男だ。
俺がこの病気になってからも、唯一、以前と変わらずに接してくれる男だった。
事実、このクラスの中でトシアキだけは、俺に変な頼みごとをしてくる事は無かった。
だから、安心…いや、油断していたのだろう。
二人っきりで話したいことがある、と言われても、俺は何も警戒せず、
トシアキに言われるがままに、教師が来てくれないであろう、家庭科室へとついて行った…。
一時間以上は経っただろうか。
俺とトシアキは、他愛もない雑談を続けていた。
「……はは、マジで?履いてみたわけ?Tバック」
「興味はあったからな~。でも、アレはダメだわ。尻に食い込んだ気持ち悪ぃ」
「……へぇー。女ってのも大変なんだなぁ」
「本当だよ。生理のたびに腹が痛くなるし…。生理の時は胸も変に張って気持ち悪いんだぜ」
こんな話を気楽にすることが出来るのも、相手がトシアキだからだ。
トシアキは他の男とは違う。
今まで、一度も変な事を要求してこなかった。
俺の姿形が変わっても、以前と態度を変えずに接してくれている親友だから。
しかし、ひとつ、気になっていることがあった。
なかなか言い出すきっかけが掴めず、結構な時間が経ってしまったが、
このまま無視し続ける、という訳にもいかないだろう。
「なぁ…トシ」
俺は、意を決して、声のトーンを一段落とし、トシアキに問い掛けた。
「なんで…わざわざ、こんなとこに連れてきたんだ?」
そう、ここは家庭科室。
授業中でなければ、こんなところに人はまず来ない。
ましてや今は放課後。
雑談をしている間に、いつの間にか日も沈み、薄暗くなり始めている。
目の前にいるのが親友とはいえ、さすがに不安な気持ちが沸き上がってくる。
「あぁ、それか…。そうだよな、ゴメン。なかなか言う勇気が出なくてさ」
なんだろう…。
最近の事を考えると、決して良い想像が浮かばない。
「あの…さ」
余程言いづらいのだろう。
なかなか、次の言葉が出てこない。
「あの…キヨが皆にやらせてるアレ…。頼みたいんだ…」
…ショックだった。
こいつだけは…トシだけは他の男と違うと思っていたのに。
悲しみが胸に広がり、自然と涙がこみ上げてきた。
きっと誰もいなかったら、そのまま泣き出していただろう。
だけど、俺は、そんな自分を見せたくなかったから、涙をこらえて返事をした。
「なんだよ…お前もやっぱ…男だな…エロいことばっかり考えて…」
トシアキが、不思議そうな顔で俺の事を見下ろす。
なんとか平静を装ったつもりだったが、やはり、動揺は抑えきれなかったようだ。
「それで………何をしたいんだよ?」
「あー…そのー………ヤらせて…欲しいんだ」
…………………………!!!
こいつだけは違うと信じていた親友が、今、俺の目の前で、
他の誰よりも過激な事を俺に要求してきた。
その事実に、一瞬だが、頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。
それでも、俺は何とか気持ちを落ち着けて、トシアキに返事をした。
「悪いけど、それだけは…」
言葉を遮るように、目の前に金の束が出される。
「11万ある。これでどうか…頼む!」
11万!?
コイツは何を考えているんだ。
俺とヤりたい。
それだけの為に、こんな大金を用意したというのか。
もしかして、今まで俺に何もしようとしなかったのは、親友だから、ではなく、
この目的のために、金をため続けた、ということなのか…。
こいつだけは違う、という考えは、俺の勝手な思い込みだったのか…。
…いや、それでも。
それでも、俺はまだ、トシアキを信じたかった。
こいつだって男なのだから仕方ないじゃないか。
女の体に興味が無いはずが無い。
だから、ちょっと、欲求が膨れ上がってこんな行動に出てしまっているだけなのだ。
だから、ここでその欲求を満たしてやれば、きっとまた親友のトシに戻ってくれる筈だ。
そう考えたから、俺は…その金を……受け取ってしまった………。
「ありがとう、キヨ…。じゃあ、皆! 入ってこいよ!」
…皆?
何のことか分らずにいると、入り口のドアが開いて、ぞろぞろと級友たちが入ってきた。
どういうことなのか、俺には、事態が把握できない。
「皆で五千円ずつ出し合ってさ。あれだけ貯めたんだってさ」
え…?
「俺もさ、流石にSEXは無理だろうって皆に言ったんだけどさ。いやー。頼んでみるもんだな」
トシアキ…何を言って…。
「まぁ、俺は代わりに頼んで欲しいって言われただけだからもう帰るけど」
帰る…?何で…?
「それじゃあな、キヨ。また明日。こんな事言うのもなんだけど…、出来れば体、大事にしろよな」
つまり…どういうこと?
俺とやりたがっていたのはトシアキじゃあなくて…。
つまり、トシアキはやっぱり俺の親友のままで…。
だから…つまり…………………。
金をその場に投げ捨て、入口に向かって走った。
そして、入口をふさいでる奴に体当たりをする。
しかし、相手はビクともせず、逆に捕らえられてしまった。
「やだ…! やめろ! 離せっ!」
必死に振りほどこうとするが、非力な俺が暴れたところで全く効果がない。
俺は、軽々と持ち上げられて、教室の真ん中まで連れ戻されてしまった。
「ダメだよー。キヨ、お金受け取ったんだからさー。ちゃんと約束守んないと」
「知らない! そんなの知らない! 金なら返すから! 離せよ!」
自由な足で、俺を捕まえている男のスネを思い切り蹴りつける。
弁慶の泣き所というくらいだ。女の力でもかなり効いたのだろう。
「うっ」と短く唸って、俺を掴む力を緩めた。
その隙に精一杯の力で振りほどき、再び入口に向かって逃げ出そうとする、が…。
脇から伸びてきた別の手に右腕を掴まれ、床に引きずり倒されてしまった。
仰向けに思い切り倒された瞬間、反対の腕に力がかかる。
見ると、二本の腕が俺の左手をしっかりと押さえ付けていた。
反対側を見ると…やはり同じように、別の二本の腕が、右腕を押さえ付けていた。
唯一自由になってる足をばたつかせ、身をよじり、なんとか脱出しようと試みる。
しかし、幾ら足掻いても、男二人に押さえ付けられているこの状態では、徒労にしかならなかった。
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