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今日の学校はいささか憂鬱でした。婚約者の新木さんが無断欠席されたとの事で、志島さんが早退されてしまったのです。志島さんにあれほど慕われる新木さんが、正直羨ましくて仕方がありません。
こんな事になるなら、もっと早く志島さんに告白だけでもすれば良かった――。と、そんな事を書くのももう何度目でしょうか。自分の未練ぶりが情けなくなります。
転校初日に耕也さんとの仲を告白された大胆さ。そして、全ての教科において見せつけられる頭脳の優秀さと運動神経の高さ。そして何より、可憐、あるいは清楚という言葉を体現するかのような性格。
正直、私が新木さんに勝てる要素は胸のサイズぐらいしか思い浮かびません。
それでも――。それでも私は、志島さんを慕い続けたい。それはエゴなのでしょうか。
「……はぁ。またこんな日記になってしまいました」
未練がましい自分が少し嫌になる。一年以上ずっとあこがれてきた男性が、転校してきた女性にいきなり奪われて。
思いを振り切れないのも仕方がないのかも知れないけれど、それにしたって情けない。
「まだ二か月――ですしね」
嘘だ。本当は違う。もう二か月、だ。志島さんに手を伸ばす事が許されなくなって、もう二か月。
それなのに、忘れる事が出来ない。
あの眼差しで情熱的に見つめてもらいたい。
あの腕に力強く抱かれたい。
あの口で優しく囁かれたい。
私の全てを見てもらいたい。一糸まとわぬ姿を。
そして、あの眼差しで――。あの腕で――。あの口で――。
「志島――いいえ、耕也さん。一度で良いからあなたと一つになりたいなどと不埒な願いを抱く私は、許されざる存在なのでしょうか」
一瞬、星が輝いた気がした。まるで、私の願いに応えてくれたかのように――。
朝。星が願いをかなえてくれたのか、志島さんと新木さんが喧嘩していて――なんて事はもちろん無く、今日も二人は仲が良かった。
「耕也、昨日はごめんね。お詫びに今日はお弁当作ってきたから、一緒に食べようね」
「あー。はいはい、分かったから……」
「んー……。冷たい……。あ、加賀見さん、おはよう☆」
「はい、新木さん、おはようございます。お二人はいつも仲が良くて羨ましいですわね」
あれ程志島さんに焦がれているのに、二人を見ていると不思議と新木さんへの嫉妬が立ち消えてしまう。これも、新木さんに敵わないと思ってしまうからなのか。
「あはは……。ありがとう。なんだか、はっきり言われるとちょっと恥ずかしいなぁ」
二人の中を褒めると、決まって新木さんは赤くなる。こういう純粋さがとても羨ましい。
とても人には言えないけれど、私なぞ毎夜のように志島さんを思って体に指を這わせてしまっているというのに――。
「ったく、何がどうやったら恥ずかしいんだ、ゆで卵を――」
志島さんは、どちらの方が――いや、清楚な新木さんとお付き合いしていらっしゃるのだから、当然、そういう女性が好みなのでしょう。やはり私は、どうせ告白しても振られていたんでしょうね。
「ふぇ!? 耕也ぁ! 学校でそんな話しないでよぉ!!」
「うぉ!? 彰、バカっ!!」
新木さんが慌てて志島さんの口をふさごうとしたのが見えた。
直後、バランスを崩した志島さんが私に向かって倒れ込んで来る。
――え?
気付いた時にはもう手遅れ。志島さんの頭が目の前に迫って来て、私の頭に激しい衝撃が――。
あぁ、お星様。志島さんと一つになるって、頭突きの事なのですか?
「あぁ!? 耕也! 耕也ー!」
二人とも気絶してる。誰か保健室に――。薄れゆく意識の中で、そんな声が聞こえた気がした。
うぅ……ここは……? 辺りを見回すと、白い間仕切り。どうやら保健室に連れてこられたようで。
今は何時なのでしょうか。周りの静けさから、とっくに授業が始まっている時間なのは間違いなさそうですが。
「あつつ……!」
ひどい頭痛……。うぅ、大きなコブが……ん?
今のは私の声なのでしょうか? 妙に野太く、まるで風邪でも引いたみたいな――というか、髪の毛が……短い?
私の自慢のロングヘアーが、まるで男子のように――。
……え? 何、この服装……ワイシャツ……?
「ど、どういう事……?」
改めて聞くと、風邪声などではない。これは間違いなく男の、それも――。
「志島……さん?」
間仕切りを勢い良く開くと、隣のベッドで人が寝ていた。そう――私が。
「え? こ、これって……まさか……」
あぁ、お星様。確かに私は志島さんと一つになりたいと願いました。しかし――。
「しかし、意味が違いますわ……」
でも……。もしかしたら、これはこれでチャンスかもしれません。
そう――。普段であれば、婚約者のある志島さんに触れる事ははばかられるでしょう。
しかし、今は理屈上は私の体。つまり……。何をしても許されるのではないでしょうか。
志島さんには申し訳ありませんが、是非、この機会に殿方の勉強を……。
「こーうーやー!! 目覚めたんだね―!!!」
「ほぐふ!」
突然の衝撃。……タックル?
「ごめんね! ごめんねぇ! 僕のせいで!!」
この声は……新木さん。そうか、心配してずっと保健室にいらしたのですね。なんて献身的な――。
「あ、え、あ……。だ、大丈夫。オレはもう平気だから、気にすんな」
咄嗟の言葉ですが、志島さんらしく装えたのものか。このような状況では正直かなり不安ですが。
「本当? 大丈夫かどうか見てあげるから、早くズボン脱いで。ほらほら」
ズボン? 何か関係があるのでしょうか。ともかく、新木さんがそう仰るなら――。
「お、おう。今脱ぐから、ちょっと待ってろ」
「……耕也? だ、大丈夫?」
え?
「いつもなら『なんで下半身が関係あるんだ! この全身下半身が!』って言う所じゃない!」
ぜ、全身下半身? どういう意味? ともかくこのままではまずそうですね。
「あ、い、いや、今言おうとしてたんだよ。だから大丈夫だって」
「耕也……」
う……。流石に無理がありますよね。ど、どうしましょう……。
「すごいよ! まさかここでノリ突っ込みを持ってくるなんて!」
へ?
「うぅん、僕とした事が、耕也の意図を読み切れず普通に心配しちゃうだなんて……。大失態だよ」
よ、良く分かりませんが、無事乗り切れたみたいですね。……っていうか、彰さんってこういうキャラでしたっけ。なんだか随分と違和感が……。
「ともかく、それなら改めて! カモナマイ下半身!!」
「あら? 志島君、目、覚めたのね」
「あ、はい、先生。おかげさまで僕も安心しました」
え? あれ? 今、新木さん、私に飛びかかってる途中だったような。あれ? え? え?
「ひどく頭を打ったんだから、まだ安心しちゃダメよ。とりあえず今日は早退して、安静にしていなさい」
「あ、は、はい。分かりました」
「あ、じゃあ僕も――」
「あなたはちゃんと授業を受けなさい」
「あうー……。耕也、放課後お見舞いに行くからねぇ」
良かった。この状況で新木さんと一緒にいると、間違いなくぼろを出しそうですし。
放課後までに頭を落ち着けるか、なんとかして元に戻る方法を見つけなくてはなりませんね……。
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読んだ感想です。
( ゜∀ ゜)!わーい
まさかの第三者出現、しかも入れ替わりもの!
二人の漫才コンビネタが続くかと思いきや、トリオになってしまうとは。
それにしても、意外な事に彰の変態っぷりは広まってないんですね。というよりも、彰がああいう事をするのは耕也の前だけなのでは?(彰のエセ変態疑惑説が浮上・・・)
新キャラの加賀見さんって、もしかしてド変態なのかそっちも期待!
そして、普通なまともキャラに見える耕也がどんな行動をとるのかも・・・定番なコトしてくれるんでしょうか?
うーむ、次回が楽しみです。
月のない夜には気を付けろ! | URL | 2009-06-06(Sat)01:14 [編集]
ちょw
いろいろと期待高まる。
実は、クラスメイト、おもに一部の女子には
ひっそりと変態っぷりがばれていて、
その女子たちによってこっそりと、このバカップルが
いいようにいじられている物とばかり。
いえ、ドタバタ夫婦漫才を誘発させるようなものを仕掛けて
見て楽しんでいる一部女子達とか妄想していたんですが。
意外とTPO(?)をわきまえている彰君ですね。
しかしこの彰くんのテンションは毎回毎回、斜め上で(笑)
ひょっとしてまろんどさんの頭の中は彰くんですか?
もあ | URL | 2009-06-06(Sat)19:37 [編集]
コメント訂正です。
>新キャラの加賀見さんって、もしかしてド変態なのかそっちも期待!
間違えてました。
新キャラ加賀美さんがド変態に成長することに期待!でした。
「機会に殿方の勉強を」「理屈上は私の体」「何をしても許される」これだけの素養があれば、立派な変態候補生で間違いない?
>「一人の時か耕也の前ではブレイク性格だけど、それ以外のところでは皮をかぶっている」という設定で押し切らせていただきますね
すみません、前の解説に書かれていた設定を忘れてました。
もしやと考え、読み直してきました。
なるほど、そういう事なんですね。
でも、敢えて言わせていただくと、「世の中にバレない秘密など無い」ということです。もしかして薄々勘付いている人もいるかも~な状態なのでは?
どちらにしてもコンゴ横断?な展開に期待してます。
月のない夜には気を付けろ! | URL | 2009-06-06(Sat)20:03 [編集]
>月のない夜には気を付けろ!さん
コメントありがとうございます。
加賀美さんの存在は、
一個目が好評だった時点でイメージを作ってはいたのですが、
三個目にしてようやく作中に出してみました。
本日アップの二話目にて、早くも変態性を垣間見せておりますが、
どのように映る事でしょうか。
願わくば、彰とはまた違った変態として楽しんでいただければと思いますですw
現状では書く予定はありませぬが、
彰の変態ぶりは、信頼した相手にしか見せない姿なのです。
というわけで、ある意味では同級生に心を許していない、
とも判断する事が出来てしまいます。
まぁ、あの性格では、心を開いた瞬間に相手が離れていきそうですがw
>もあさん
コメントありがとうございます。
残念ながら、彰君は学校では良い子ぶりっ子でございますw
ただし、何故周りにばれないのか不自然なほどの不用意さが目立ちますがw
その辺のドタバタは、鋭意製作中の四こ……げふん。
いずれ公開することになるかと思いますですw
……そして、いずれ言われる日が来るとは思っておりました。
「彰の思考はもしかしてまろんどさんの思考?」
……それだけは、敢えて黙秘させていただきたいと思う今日この頃でございますw
まろんど | URL | 2009-06-06(Sat)23:18 [編集]
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