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窓際の俺の席に届く柔らかな日差しは、俺を夢の世界へといざなってくれた。
残念ながら、五分もせずに教師の怒声で叩き起こされはしたが、この平和な日常の中では、その程度の事は些細に感じられた。
平和……。本当に平和だ……。
なんだか、こんなに平穏を感じたのは久しぶりかも知れない。
何故だろう。こんなに自由を感じるのは……。
「んー? なんだ、新木は休みか。志島、何か聞いてないか?」
……分かった。彰が居ないんだ。
「っていうか、なんで俺に聞いてくるんですか?」
「んん? お前ら、親公認で婚約しているんだろう? 新木が言っていたぞ」
よし、今度彰の首がどれくらい伸びるか実験しよう。二十センチくらい伸びて、俺と同じ身長になったら最高だな。ヒャッホウ。
「それはいつもの彰の妄言です。忘れて下さい」
「そうなのか? お前ら、下手な恋人同士より仲が良いから、すっかり信じてしまったよ。はっはっはっ」
はっはっはっ。ちっとも嬉しくない。
「あれは、彰の方からちょっかい掛けて来るから仕方なく付き合ってるだけですよ。っていうか先生も、不純異性交遊なんだから止めて下さいよ」
「そうなのか? それにしては、お前も以前より生き生きしてるじゃないか。それに、そもそもお前の方から新木に告白したんだろう?」
う……! 過去の過ちがこんなところで俺を蝕むとは……。
「それはともかく、本当に新木からは何も聞いてないのか?」
「ええ、聞いてませんよ」
「そうかぁ。携帯にも?」
携帯……。そういえばバッグに入れっぱなしだな。一応見てみるか。
――着信六十八件。新着メール三十九件――。
………………。
「どうした? 連絡入ってたか?」
「いえ、やっぱり入ってませんよ。家に連絡してみたらどうですか?」
言いながら携帯の主電源を切り、バッグの中に放り込む。
「それがなぁ、電話しても出ないんだよ。先生、携帯の番号は知らないし。何かトラブルにでも巻き込まれていなければ良いんだが」
む……。流石に心配になってきた。彰ならたとえレイプされそうになっても、レイプ犯がドン引きして立ち去ると確信しているが、それでも、誰にも何の連絡もないというは、流石に異常事態というものだろう。
……ん? 誰にも?
あぁ、いかん。一瞬で記憶の外に追いやっていた。思い切り俺の携帯にストーカーの証があったじゃないか。
「そうですか。まぁ、おれが携帯知ってるんで連絡してみますよ。何かトラブルでもあったら伝えますんで」
それだけ言い残すと、携帯を持ってトイレへと向かった。
トイレで携帯の電源を入れ直すと、更にメールが三件増えていた。少なくとも、メールをし続ける程度の余裕はあるという事だろう。
取り合えず最新のメールを開く。
「これは幸福のメールです。このメールを見たマイハニー耕也は、三日以内に彰君に童貞を捧げないと」
さて、休み時間も終わる。そろそろ教室に戻るか。
再度携帯の主電源を切ろうとしたその時、携帯に着信が飛び込んできた。
一瞬悩んだが……。
「仕方無いな」
ぴっ。
「……うせこの電話も出ないんだ。もう耕也は僕の事なんか忘れて新しい彼女を見つけてるんだ。そして今頃は、耕也の肉棒に蜂蜜をたっぷりつけて、それを女が……。いやだー! それは僕の夢なんだぁー!!!」
ぴっ。
さて、教室に戻るか。
貴重な休み時間を無駄にした事を激しく後悔しながらトイレを後にする。
と、そこに間髪入れずに再び着信がやってきた。
ここで仕方ないなぁと考えて電話に出てしまう自分の心の広さが恨めしい。
ぴっ。
「あ、耕也、さっきはごめんね。えへへ、あんな事聞かれちゃって、なんだか照れくさいな」
俺の記憶によると、その台詞は、なんとかの蜂蜜漬けに対して使えるようなものではないはずだが。
「そんな話より、今日はどうしたんだ? お前が学校サボるなんて珍しいじゃないか」
「あ、そうそう、それなんだけど、困ってるんだよ! 今、冠町のすごいお屋敷にいるんだけど」
ぷつっ。
ん? 急に切れたぞ。……って、あぁ、なるほど。電池切れだ。そりゃあ、七十件以上も着信を受けていれば電池を消費するというものだ。
さて、彰のいる場所は分かったが、どうしたものか……。
「すみません、早退します」
全く。何で俺はこんなお人よしなんだ。
頭を掻きむしりながらバッグを肩にかけ、教室を後にする。
「あれ? 耕也君、また彰ちゃん絡み? 婚約者は大変だね」
そんな言葉が聞こえた気がする。
これで、彰の首は四十センチまで伸びる事が確定した訳だ。……ちぎれないと良いな。
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