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喫茶ま・ろんど

TSFというやや特殊なジャンルのお話を書くのを主目的としたブログです。18禁ですのでご注意を。物語は全てフィクションですが、ノンフィクションだったら良いなぁと常に考えております。転載その他の二次利用を希望する方は、メールにてご相談ください。

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童貞喪失物語1

「よっ」
 営業回りに疲れ、自販機前でコーヒーを一気に飲み干した直後。
 妙になれなれしく声を掛けてくる見知らぬ少女に達也は困惑した。
 服装だけは心当たりがある。近隣で有名な進学校の制服だ。清潔感の溢れる白いブレザーの、首元を彩る赤いリボンが二年生であることを指し示していた。改造しているのか、制服としてはどうかと思う程に短いスカートと黒いハイソックスの隙間から覗く素足が欲情をそそる。
 ほとんど無意識に喉を鳴らしながら、その部分に視線を向ける。そんな自分が恥ずかしくなり、達也は慌てて顔を上げ、スーツの乱れを整えた。
 改めて少女の姿をその目で確認し、達也は再び喉を鳴らした。
 自分の肩辺りまでしかない身長も、腰まで伸びている艶のある黒髪も、触れるだけで折れてしまうのではないかと思える程に細く真っ白な手足も、全てが達也の好みと一致している。
 きっかけさえあれば是非とも仲良くなって、あわよくば恋人になりたい。そして未だ果たせずにいる童貞喪失をこの少女で果たしたい。
 一目でそんな考えに至る程の魅力を持った女性だった。
 しかし、残念ながら達也には全く心当たりがない。
 そしてそれ以上に困った事に、少女の方はまるで旧知の友に声を掛けるかのようにきさくに声を掛けてきたのだ。
「どうしたの? 達也」
 名前を呼ばれた事で、人違いじゃあないことを確信する。達也は頭を必死に回転させ、目の前の少女が誰であるのか思い出そうと努めた。
 しかし労も虚しく、どうしても思い出す事が出来なかった。
 やがて業を煮やしたのか、少女の方から聞いてきた。
「もしかして……私のこと、知らないの?」
 頭を垂れて悲しそうに呟く少女を前に心の底から達也は慌てた。しかしそれは、少女を悲しませたことによる焦りによるものではなく、こんな美人のことを忘れ、折角のチャンスを無駄にしてしまう自分の愚かさに対する焦りだった。
「あ、いや、ご、ごめん。し、知ってる。知ってるよ。ええと、ほら、その」
 咄嗟に出鱈目が口をつく。そうして時間を稼ぎながら再び思い出そうと頭を回転させるが、慌てふためいている今の精神状態で、まともに物を考えることなど出来る筈もない。背中に、そして額に嫌な汗をかきながら、その汗を拭うのも忘れながら達也は必死に記憶をたどった。
「ひどい……知ってるなんて嘘をついて……」
 少女の目端には涙がにじんでいる。
「う、嘘じゃないよ。ま、待って。今思い出すから、ええっと」
 心当たりがないことをさらりと漏らしてしまうが、それに気が付かないほど達也は慌てている。そんな達也の言葉を、少女が力強く遮る。
「嘘つき!」
 叱責され、達也が口ごもる。
「知ってるわけないじゃん! だって……初対面なんだから!」
「……え?」
 言葉の意味が分からず、達也は間抜けな声を上げた。
「……初対……面?」
「うん、初対面」
 先程の悲しい表情が嘘のように、少女はけらけらとした笑顔を達也に向ける。
 達也は、未だに状況が理解できずにぼうと立ち尽くした。
「え……何? ……誰?」
 間抜けに聞き返しながら、その頭をゆっくりとクールダウンさせる。やがて、まともにものが考えられる程度にまで落ち着きを取り戻した達也は小さく呟いた。
「え……もしかして、からかわれた……?」
 と、答えに行き着いた達也は、怒りと悲しみの混じった複雑な感情を湧き起こした。荒々しく鼻を鳴らし、腹の底から声を絞り出して怒鳴……る勇気のない達也は、少女に変わって目端に涙を溜めてその場に膝をついた。
 道行く人々が何事かと達也に視線を集めたが、それを恥ずかしがる気力もなかった。
 しかし、そこで一つ、疑問が浮かぶ。
「あれ……。そういえば君、なんで俺の名前知ってるの?」
 その言葉を聞いて少女は表情を変えた。笑顔ではあるが、何事か裏でたくらんでいると思われそうな、悪意あるいやらしさを感じさせるものだ。
「ったく、気付くの遅ぇよ」
 自分の頭に手を突っ込んで、がりがりとかきむしる。綺麗に整っていた黒髪がひどく乱れるが、そんな事はどうでも良いといったふうだ。
 膝をついている達也に視線を合わせるためか、少女はその場にかがみこんだ。あまりに無造作にかがんだため、達也の位置から少女のスカートの奥がはっきりと確認された。まるでスカートを履いていることを忘れているかのような粗雑さだ。
「水色」
 達也の呟きを聞いて、慌ててその足を閉じる。
「このエロ」
 未だ状況が掴めないまま頭を軽く叩かれる。その叱責に罪悪感だけを募らせ、達也は視線を逸らした。
「ま、良いや。とりあえず歩きながら話そうぜ」
 そう言って少女が手を差し伸べた。
「あ、う、うん」
 咄嗟にその手を掴む。柔らかさと温かさが達也の手に伝わる。少女に触れてしまった驚きから、達也は手を離そうとするが、それより早く少女が強く握り返し、許さなかった。その力強い感触に、達也は一層胸を高鳴らせた。



 歩いている人が軒並み振り返る。有名進学校の女子が、おろおろした様子のスーツ姿を引っ張って得意げに歩いているのだから当然だろう。
「で……どこ向かってるの。ですか」
 少女に引っ張られながら、達也は恐る恐る聞いた。
「んー。とりあえずホテルかな」
「ホ、ホテ!?」
 聞き間違いかと思い、達也は聞き返す。が、全くちゃんとした言葉になってない。
「何慌ててんだよ。だってお前、良い歳して実家暮らしだろ。親が居たら何も出来ねぇじゃん」
 達也は言葉を失う。親が居ると出来ない。ホテルなら出来る。それが意味するところは一つだ。
「え? いや、だって。え? 初対面、だよね」
 先に一度、少女の方から言われたことだが、それが何かの聞き間違いだったのではないかと思い、恐る恐る聞き返した。
 恋人にしたいと思える程に好みの少女。その少女が自分をホテルに誘っている。
 そこだけを見れば実に素晴らしいシチュエーションだ。しかし、逆に言えばそこだけだ。そんな美味しい話が実際にある筈がない。詐欺か援助か美人局か性質の悪い悪戯か。
 達也の頭の中に巡る想像は、そのどれが本当だったとしても全く好ましくないものだった。
「ん、あー。そっか。悪ぃ悪ぃ。言い忘れてたわ」
 少女が立ち止まり、達也の方を振り向く。
 顔立ち自体はまだ幼さを思わせる少女のものなのに、表情は自分と同年代かあるいはそれ以上の雰囲気を醸していた。
「んー。どっから説明するかな……」
 眉を寄せ、首をかしげて悩む様子はやけに男っぽい。しかし見た目とのギャップで、それがまた達也には妙に可愛らしい仕草に見えた。
「とりあえず名前からだな。俺だよ。透」
「とお……る。透!?」
 記憶をたどり、ひとつ、心当たりに辿り着く。二ヶ月前にも遊んでいる、学生時代からの親友の名前だ。
「そ、柳井透。二十六歳だ」
 と言う少女の姿はどう見ても自分と同い年には見えない。
 やはりからかわれているのではないかと思い始めた達也に対し、透と名乗った少女は更に説明を続けた。
「企業秘密だからあんまり詳しく話せないんだけどな。勤め先の研究所で、遺伝子情報を他者に組み込むことに成功したんだよ」
「遺伝子情報を?」
「ああ。元からの情報を消去して代わりに他人の遺伝子情報を入れるんだ。その後、細胞分裂を促進させることで、三週間程度で完全に変化するんだ」
 こんな風にな、と言いながら胸を揺らすような動作をする。が、あまり大きくないのだろう。服越しには、膨らんでいるのかどうか正直良く分からない。
 それってもしかして人体実験じゃないのか。細胞分裂の促進ていうのはどうやるんだ。そもそもなんでお前がそんなことを。ていうか本当にお前、透なのか。
 などなど、純粋な疑問と嘘ではないのかという疑念の間で、達也は矢継ぎ早に質問をぶつけた。
 しかしそれらの質問は全て、
「企業秘密」
 の一言で済まされてしまった。
 唯一最後の質問にだけ、絶対に透と自分しか知らないであろう秘密を七つほど暴露され、確かにその少女が透なのだと達也に確信させた。
「ま、色々疑いたい気持ちはわかるけどよ。とりあえず入ろうぜ」
 言われて達也は見上げる。引っ張られていたため気付かなかったが、いつの間にかフリータイム四千五百円の文字が輝く自動ドアの前に立たされていた。
 こんな昼間にこんな少女とラブホテルの前に立っている。そんな姿を万が一会社の同僚にでも見られた日には運が良くてクビだ。
 左右を見渡し誰もいない事を確認すると、今度は達也が少女を引っ張り、ホテルの中へと入っていった。



 タッチパネルの前で適当な部屋のボタンを押し、その部屋に向かおうとした時、すぐ脇にある関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉が開き、染めているらしい不自然なまでに黒い髪のおばさんが顔を出した。
「未成年の利用は禁止だよ」
 実際には軽蔑などしていなかったのかもしれない。しかし達也には、このような少女を引き連れていたら誰に何を思われても仕方がない、という気持ちがあった。そのためおばさんの視線が軽蔑のまなざしに思えて、咄嗟に目を伏せた。
「はい、免許証」
 と言いながら透がカードを差し出す。そこには確かに、
「石渡千津留」
 と書かれており。生年月日が二十一歳である事を証明していた。
「……学生さんじゃないのかい?」
「あ、その……。彼の、趣味、で。その」
 気まずそうにうつむく透の表情は、これまでの流れを考えれば演技に間違いない。が、達也がいくら疑っても演技に見えないほど、透は少女を演じきっていた。
「……あんまりややこしい事するんじゃないよ」
 そう言っておばさんは元の扉へと戻っていった。
「……なあ」
「さ、いこいこ」
 達也の言葉を待たず、透は一人、部屋の方へと走っていった。

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