新しい記事を書く事で広告が消せます。
怨むならDRQEを恨んでください。
いえ、全部私が悪いのは分かっているんですが(ぉ
とにもかくにも、続きからは物語が一本なのですよ~。
「シンデレラ」
昔々、ある所に、シンデレラという娘がおりました。
シンデレラ。考えてみれば不思議な名前です。実は、この名前にはちゃんと意味があるのです。
シンデレラの母親は、昨今のアニメや漫画におけるツンデレキャラの濫用や誤用にほとほと嫌気がさしておりました。そんな嘆きから、母親は、シンデレラがまだお腹の中に居た時、もしも女の子が生まれてツンキャラに成長した時、間違ったデレ方をしてしまいはしないかと、日に日に大きくなっていく自分のお腹をさすりながら懸念しておりました。
そうして母親は、娘が将来ツンキャラになった時、間違ったデレ化をしないようにという願いを込めて、こう名付けたのです。
真デレら、と。
という嘘八百はさて置いて本題に入りましょう。今のシンデレラには継母と二人の義姉がおりました。
継母は、とてもしつけに厳しい女で、それは知らない人から見れば、やりすぎだと思われるほどでした。しかし、周りの人たちは知りませんが、いつも、娘たちを怒った後には、厳しく言いすぎた自分を省みて、その日の夕食をちょっぴり豪華にするのです。そんな日は、決まってこう言います。
「べ、別にお前達のために買ったわけじゃないよ。今日はたまたま霜降りの牛肉がセール品だっただけさ」
と。
そんな継母は、名をツンデレラと言いました。
そして、上の姉は、ヤンデレラと言いました。
普段は恋人に対してべたべたして、見ている方が恥ずかしいぐらいの甘えっぷりですが、
ひとたび恋人に対して不審を感じると、台所から鋭く研がれた包丁を持ち出し、一呼吸のためらいも持たずに振り下ろすのです。
「あなたが死んでも、代わりは居るもの」
「あなたはたぶん、三人目だから」
などの、極めて自己中心的かつ、今の彼氏が何人目かすら覚えていない記憶の錯乱ぶりは、誰が見ても恐ろしいものでした。何故警察に捕まっていないのか、全く不思議で仕方がありません。
そして、二番目の姉はクーデレラと言います。
とても理性的なクーデレラは、何事に対しても冷静に対処できる頭脳派ですが、何かの拍子に可愛いね、などと褒められると、とたんにしどろもどろになってしまう一面を持っております。そのギャップ故、近所には実にたくさんのファンが存在しています。
と、勿論、ここまで語り連ねた内容も全て嘘八百でございます。三人の名前も全てデタラメです。でもまあ、本当の名前を知らなくとも、今から語る物語には差し支えが無いので、どうかお気になさらないで下さい。
では、これ以上信用を失う前に本題に入るとしましょう。
シンデレラのこれまでの人生が、一般的な人間のそれよりも不幸なものであるのは誰もが認める事でしょう。
なにせ、お腹を痛めて産んでくれた母親が今はおりません。
シンデレラが九歳の頃、船乗りのスティーブンスに一目惚れし、旦那を捨てて遠い異国への船に乗って行ってしまったのです。
そんなシンデレラが心の傷を癒す間もなく、父親は再婚をしました。そうして再婚相手の家に居たのが、今の継母と二人の姉だったのです。
そうなると、シンデレラの生活は、それまでと一変しました。
まず、朝、早おやつ、昼、遅おやつ、間食、夜、夜食と、一日に七度の食事が、朝、昼、おやつ、夜の四度に減りました。
夜も、今までは好きなだけ起きていられたのに、九時には寝るように厳しく言われました。おかげで、大好きな大好きな金曜ロードショーも録画しないと見られなくなってしまいました。
朝も今までは好きなだけ寝ていられたのに、朝八時には起こされるようになりました。そんなに早く起こされた上、皿洗いを手伝わされたり、畑仕事を手伝わされたり、文字書きの勉強をさせられたりと、嫌な事を沢山させられました。
髪型も、今までは母親の趣味でカラフルな色に染めてもらっていたのに、それも禁止され、ごくごく普通の色に染め直されてしまいました。
こうして今までと違う生活に強いストレスを感じたシンデレラは、どんどんと痩せていってしまい、十歳の誕生日を迎える頃には、育ち盛りだというのに体重が二十キロも減ってしまっておりました。
そうして、標準体重のままスクスクと育ち、年頃になったある日、それは起きました。
シンデレラが一人昼寝をしている昼下がりのことです。
「あなたたち、聞いた? お城で舞踏会が開かれるらしいわよ」
継母が、興奮した様子で話します。
「舞踏会?」
上の姉は、継母が何にそんなに興奮しているのか、分からないといった様子で首をかしげます。
「天下一?」
下の姉が、あまりにもコテコテのボケをかまします。
「そう、舞踏会。この舞踏会で王子様の目にとまると、お妃になれるんですって」
そんなひねりのない乱暴なボケを拾ってあげるほど、継母は優しくありません。無視された下の姉はとても寂しそうです。
「へえ、素敵な話しじゃない。一般人が王子様と結婚するチャンスだなんて。まさに玉の輿という奴ね」
上の姉が目を輝かせます。
「天下一……」
下の姉が寂しそうに呟きます。
「せっかくのチャンスですもの。シンデレラにおめかしさせて、王子様の目に留まるよう頑張りましょう」
そう言う継母は、熱い意気込みからか、とても興奮しています。
「まあ、それは良い考えだわ。シンデレラは本当に不憫な人生を送ってきたから、どうにかして幸せになってもらいたいものね」
ワガママな上に怠け者で性悪なシンデレラに対し、どのようなフィルターがかかっているのか、お人よしな上の姉が瞳を輝かせます。
「天下一……」
下の姉はまだ諦めていません。
「そうでしょう。シンデレラは、器量はとても良いからね。きっと王子様の目にも止まる筈よ。ああ、今から楽しみだわ」
継母は、シンデレラの幸せを心から願ってそう言います。
「でも、不思議よねぇ。何で王子様はわざわざ一般庶民からお妃を選ぼうとしているのかしら」
上の姉がもっともな疑問を口にします。
「天下一……」
下の姉がいいかげんしつこいです。
「言われてみれば確かにねぇ。でも、そんな事を悩んでも仕方が無いわ。今はこのチャンスを活かすことだけを考えましょう」
最後まで下の姉が無視されたまま、シンデレラのシンデレラストーリー成就計画が始まりました。
「舞踏会? 出ても良いけど、確実に王子様の目に留まるような特別上等な衣装じゃあなきゃ嫌よ。でなきゃ行くだけ無駄ですもの」
シンデレラに話を持ちかけた継母でしたが、シンデレラのそう言われ、どうすれば良いか分からず途方にくれました。
実は、既にドレスも靴も髪飾りもネックレスも、お城に行くための馬車も全てレンタル予約をしてしまっていたのです。
レンタルと言っても馬鹿にはなりません。何せ、レンタル品だというのに、それだけで夏と冬のボーナスが全て吹き飛んでしまったのですから。今からではキャンセル料も相当かかってしまいます。
悩んだ挙句、継母は、知人であるデビッドに協力してもらい一芝居打つ事にしました。そして、舞踏会の日がやって来ました。
「ドレスは用意出来たんでしょうねえ」
シンデレラが偉そうに聞いてきます。
「ええ、大丈夫よ。正確には今から用意してもらうんだけどね。魔女さん、来て下さいな」
「はいはい、ようやく出番かね。ひっひっひっ」
デビッドは、世界的な有名人で、当然シンデレラも知るところでしたが、特技を利用した完璧な変装をしているため、全く気付かれません。
「出してもらう。ってどういう事?」
シンデレラが怪訝そうに聞いてきます。
「そのままの意味よ。この魔女さんに、魔法の力で衣装を作ってもらうの」
あまりにも突拍子もない内容に、継母は、うまく騙せるのか不安で胸を膨らませます。
「まあ、魔法ですって! 素敵! 素敵じゃない! 魔法で出した衣装なら、それだけで特別な上等品だわ!」
あっさり騙されました。継母は、ああ、この子は、インチキ占い師に「不幸になる」と言われたらいともたやすく三十万もする壺を買ってしまうんだろうなあ、と不安を抱きました。
「どれ、理解してもらえたところで早速取り掛かろうかね。カボチャとネズミは、ちゃんと用意してあるかい?」
デビッドがそう言うと、上の姉と下の姉がそれぞれ、家の中からカボチャとネズミを持ってきました。
「うむ。ばっちりだね。それじゃあ、それをそこの地面に置いて。そうそう……」
事前の打ち合わせに従い、決められた場所にカボチャとネズミを置きます。
そして、上の姉と下の姉が大きな仕切りの布を持つと、シンデレラから見えないように、カボチャとネズミを隠しました。それを確認すると、デビッドは、魔法の杖を一振りしました。それを合図に、上の姉と下の姉が、同時に仕切り布から手を離します。
するとどうでしょう。確かに数秒前まではカボチャとネズミだった筈のものが、立派な馬車とそれを引く馬に変わっていたのです。しかも、上等なドレスまで馬車の中に用意されておりました。
「すごい! 本当に魔法だわ! 一瞬で馬車と馬に変わってしまうなんて!」
こうして、世界的なイリュージョニスト、デビッドの力で、シンデレラは、舞踏会に行くことになったのです。
ところが、ここでシンデレラが一つ、疑問を持ちます。
「あら。この靴……」
それは、継母が一等奮発してレンタルした、ガラスの靴でした。
「ガラス製の靴だなんて、踏んだ瞬間割れてしまうじゃないの。こんな危ない靴、履けないわ」
至極もっともな疑問です。しかし、それは、NASAの技術力で開発された、新素材の靴なのです。NASAの新素材という言葉に踊らされてしまう辺り、継母の素直さも少々心配です。我らの教祖様を崇めれば道が開かれます、と言われたら、あっさり全財産つぎ込んでしまいそうです。
まあ、それはどうでも良いとして、不安になっているシンデレラに対し、デビッドが機転を利かせます。
「それは、魔法の力がかかっている靴だから何も心配いらないよ。安心してお履きなさい」
「そう。それなら大丈夫ね」
魔法。万能です。
「ああ、そうそう。言い忘れていたけど、魔法は午前零時で解けてしまうからね。それまでに必ず帰ってくるんだよ」
もちろん、魔法が解けてしまうからではありません。レンタル料の延滞金が怖いのが本当の理由です。レンタル期間を数時間オーバーするだけで、貯金を切り崩す必要が出てきます。なんとしても、深夜零時までに帰って来てもらわないと家計的な意味で困ってしまうのです。
「分かったわ。零時までに必ず王子様を虜にしてくる。約束するわね」
そう言って、シンデレラは舞踏会の会場へと向かったのです。
舞踏会は、実に盛大に行われておりました。当然と言えば当然です。一般大衆が、例えその可能性がわずかとはいえ、王子様に見染められるチャンスを無視する筈がありません。
参加者の容姿はそれこそピンからキリまで、むしろ、あまり喜ばしくない外見の女性が多く集まっておりましたが、それでも、下手な鉄砲も数うちゃなんとかいう奴で、かなりの美貌を持った女性も少なくはありませんでした。
しかし、王子様の表情は、ちっとも嬉しそうではありません。
「どうなさいました。王子様。なにかご不満ですかな」
大臣が怪訝そうに尋ねます。
「ああ、不満だ。実に不満だよ、大臣」
王子様は言いました。
「考えても見たまえ。誰もかれもあんな裾の長いドレスを着ている」
それを聞いて大臣はハッとしました。自分の失敗に気がついたのです。
「せっかくの足が全く見えないじゃあないか」
そうです。王子様は生粋の足フェチだったのです。
それなのに、舞踏会などという形で人を集めたから、誰もかれもが品の良いドレスを着てきてしまい、王子様の大好きな足がちっとも見えなくなっていたのです。
「ああ、こんなことなら最初から生足が存分に堪能できる水泳大会を開くように指示すべきだった。全く嘆かわしい」
曲がりなりにも一国の王子にそんな発言をされて嘆いているのはむしろ大臣の方です。
「過ぎたことは仕方がないがね。これでは、この中から妃を選ぶなど到底ありえないよ」
そう言われ、大臣はとても困りました。なにせ、そうなってしまっては企画倒れも良い所だからです。
大臣の狙いはこうでした。
このろくでなしの足フェチ王子に国を継がせるわけにはいかない。何せ、城に使える女中全員にミニスカートとストッキングの着用を義務付け、そのストッキングの色で女中の地位を制定する、足位十二階などという制度を作り、足の美しさだけで側近を選び、さらには足フェチ御用達のビデオに写真集にフィギュアにと、あらゆるアイテムに手を出し、国庫すら傾かせようとしていたのだから。と。
だから、こうして「一般人の中にはきっと隠れた、美しい足を持った女性が潜んでいる筈です」と言いくるめ、その中から妃をめとらせ、将来的に一般人の血の混じった者に王位を継承させるわけにはいかないとかイチャモンを付けて王位をはく奪する計画だったというのに、このままでは完全に失敗です。
王子が不機嫌さを増し、大臣が途方に暮れていたその時、会場にシンデレラがたどり着きました。
シンデレラは、確かに器量の良い娘です。しかし、これだけの大人数に囲まれてしまっては、到底見染められるのは難しい筈です。しかし、運はシンデレラに味方しました。
「おお、大臣、見ろ! あの女性を! 素晴らしいぞ!」
王子様がシンデレラを指さして興奮します。
「おお、お気に召す女性がおりましたか」
大臣が顔を明るくして答えます。
「うむ、あの足元を見てみよ」
「足元、ですか?」
大臣が視 線を下げると、そこには、あのガラスの靴が見えました。
「うむ。素晴らしい靴だ。靴を履いているのに足先が丸見えではないか!」
王子様の興奮は最高潮です。
大臣はノーコメントです。
「大臣。あの女性を呼んでくれたまえ。是非、あの女性と踊りに興じたい」
たとえどれほど下らない理由でも、大臣にとっては一縷のチャンスです。大急ぎでシンデレラを舞台に呼び寄せます。
そして、そこから、二人の長い長いダンスタイムが始まりました。
二人は、ありとあらゆるダンスを踊りました。
タンゴにルンバにサンバにワルツ。リンボー、ファイアー、阿波、盆、ランバダ。ヒップホップにブレイクダンス、パラパラ、ラジオ体操、そしてダンスダンスレボリューションまで、二人は、とても素敵なひと時を過ごしたのです。
王子様を一人占めにするシンデレラに対しても、沢山の羨望が集まりました。
シンデレラを見ていないのは、今や王子様だけです。王子様だけは、ひたすらに、シンデレラの足を見続けておりました。
しかし、シンデレラは大変な過ちを犯してしまいました。夢中になりすぎて、時間の経過を忘れてしまっていたのです。
「ああ、大変だわ。あれは十二時の鐘! 急いで帰らないと!」
そう言うと、シンデレラは、コインを入れたばかりのダンスダンスレボリューションから降りて走りだします。なんてもったいない。
「待ってくれ! シンデレラ、どこへ行くんだい!」
王子様が、シンデレラの足元に呼びかけます。
しかし、シンデレラはそれに答えず、一目散に走りました。その時、あまりの慌てように、靴の片方を落として行ってしまいました。
翌日。
シンデレラの継母は、積立貯金を二つも解約する羽目になりました。ドレスやらの延滞料金とガラスの靴の紛失に対する弁償とで、大変な出費です。
その上、シンデレラが王子様に住所も告げずに帰ってきた事を知り、全てが無駄足に終わった事に深く絶望しました。
シンデレラも、自分の愚かさを嘆かずには居られませんでした。
しかし、そんなシンデレラに奇跡が起こります。
「シンデレラ、会いたかったよ」
そう言ってシンデレラに声を掛ける男がおりました。そう、あの足フェチ王子様です。
王子様は、王国一のプロファイラ―を呼び付け、現場に残されたガラスの靴と足跡から、シンデレラの家を推理させたのです。
プロファイラ―は言いました。
この靴の持ち主は、恐らく、十代から二十代。三十代から四十代の可能性もあり、五十代の可能性も捨てきれません。また、靴の形から女性であることが推察できますが、男性の可能性も否定はできません。そして、体重は四十から八十キロ。単独犯かあるいは複数犯で、計画性と衝動性の双方の可能性を鑑みるべきです。
と。
そのプロファイルから、王子は見事にシンデレラを見つけ出したのです。
これには、シンデレラもびっくりです。
「シンデレラ。この僕と、結婚してくれるかい」
王子様は言いました。
「はい、喜んで」
シンデレラも言いました。
「おめでとう」
継母が言いました。
「おめでとう」
上の姉も言いました。
「おめでとう」
下の姉も言いました。
「おめでとう」
大臣も言いました。
「おめでとう」
プロファイラ―も言いました。
「おめでとう」
父親も言いました。
「おめでとう」
スティーブンスも言いました。
「おめでとう」
本当の母親も言いました。
……居たらおかしい人間が何人かいたような気がしますが、気にしてはいけません。
そして数年後。
王子様は、当初の大臣の目論見通り、一般人との結婚を理由に王位継承権をはく奪されました。
そして、城に住むことも許してもらえず、僅かな――と言っても一般人の感覚からすれば結構な――額のお金を渡され、城外へ追いやられました。
しかし、その芯にたくましさを備えていたシンデレラと元王子は、そのお金を元に商売を始めました。
二人は、間仕切りが透明で隣の部屋が丸見えという、特殊な趣味の人向けのホテルを作り、見事成功を収めたのです。
そのホテルの名は「HOTELガラスの窟」と言いました。
そして二人は、つつましやかに、幸せに一生を暮したそうな。
めでたし。めでたし。
« 雑記扱いなのに解説とはこれいかに | ホーム | 本当にろくでもないグリム童話-赤ずきん- »
トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |