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喫茶ま・ろんど

TSFというやや特殊なジャンルのお話を書くのを主目的としたブログです。18禁ですのでご注意を。物語は全てフィクションですが、ノンフィクションだったら良いなぁと常に考えております。転載その他の二次利用を希望する方は、メールにてご相談ください。

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触手巫女参る!1

 急募! 求む、健康な男子。日給八万円。拘束時間五時間。一日限りのお仕事です。あなたも可愛い巫女さんと一緒の職場で楽しく気持ち良い汗を流しませんか。仕事は肉体労働ですが内容はとっても簡単です。何もしないで立っているだけでもオーケー。詳しくは、下記までご連絡ください。
 ○○‐××××‐×××× 掘化野神社 担当:磐梯イワナ

 もしも警戒心が人並みに高ければ、富士入鹿がこのような不幸に巻き込まれる事はなかったのではないだろうか。
 日給八万円。拘束五時間。立っているだけでオーケー。そのチラシを見た人は例外なく裏があると考えて、誰一人として神社に対して問い合わせすらしなかった。
 しかし無警戒の塊である入鹿は、チラシを見た瞬間に携帯電話を尻から取り出し、一切何も疑わずに指定されている電話番号へと連絡してしまったのだった。
「はぁい、ぼるけーの神社でございますー」
 寝起きのように間延びした声に、入鹿は掛け間違えたのかと思い戸惑いを覚えた。しかし、確かに電話の向こうの声が「掘化野神社」と言っている事に気付き言葉を続けた。
「あの、バイト募集のチラシを見て電話したんですけど、担当の磐梯さんはいますか?」
 返事はこない。
「……ヤマメちゃんは阿蘇ヤマメちゃんなので、イワナちゃんじゃないのです」
「そうですか、じゃあイワナちゃんに代わって下さい」
 入鹿は即座に言葉を返したが、その言い方が正しいかどうかは疑問が残る。
「はぁい。次からはイワナちゃんにかけて下さいね」
 釈然としない意見をぶつけられた直後、電話が切れた。
 ツーツーという物悲しい音を聞きながら入鹿は何故かすぐに「あぁ、保留にし損ねたんだな」という事を察する事ができた。
 こうしていても仕方がない。入鹿は改めて発信履歴を確認し、同じ番号へとかけ直した。
「お待たせいたしました、掘化野神社でございます」
 明らかに先ほどとは違う、しゃっきりとしたまともそうな声が返ってきた。入鹿はその声に安心を覚え、改めて先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「あの、バイト募集のチラシを見て電話したんですけど、担当の磐梯さんはいますか?」
「あぁ、応募の方ですか! 失礼しました、私が磐梯です。何かご質問ですか?」
 そう言われ、入鹿は一つ非常に気になる事があった。
「えっと、とりあえず……。さっきも電話したんですけど、阿蘇さんていう人に」
「それは気のせいです。他にご質問はございますか?」
 つながらない話に疑問を感じつつ、それ以上聞いてはいけないという雰囲気が受話器越しにも伝わってきた。
「いえ……無いです」
 雰囲気に気圧され、入鹿はそう言ってしまった。
「はい、それじゃあ面接の日ですが、明日でも大丈夫ですか?」
「明日……ですか? はい、大丈夫です」
 随分急だな、とは思ったものの、少しでも早く金がもらえるならその方がありがたい。そう考え、入鹿は快く承諾した。
「はい、それじゃあ明日の午後一時に掘化野神社にお越しください。鳥居をくぐってすぐ左手に受付があるので、そこで私の名前を出してもらえれば大丈夫です」
 それだけ聞くと、入鹿は「分かりました」と一言返して電話を切った。
 あとは明日だ。そう、入鹿の不幸な一日の始まりは明日なのだ。


「ここか……」
 半分色の剥げて苔むした二メートル程度の木製鳥居を前にして、入鹿は既に疲れを隠し切れずにいた。
 町から電車で三時間。徐々に人家が減っていく景色に不安を覚えながらようやく辿り着いた無人駅。
 ホームの外には雨よけぐらいにしか役立ちそうに無い申し訳程度のトタン屋根。その下に木箱で出来た切符入れと、機能しているのか分からない薄汚れたピンク電話がぽつんと置いてあるだけだ。
 目の前の道路は舗装すらされておらず、バスは三時間に一本というすさまじさだった。運よく二十分ほどの待ちで到着したバスには客が一人も乗っておらず、掘化野神社前で降りるまでの一時間半、ついに一人も客が乗って来る事は無かった。
「はぁ……。交通費って出るのかなぁ」
 鳥居に貼られた「この鳥居をくぐる者、一切の願望を捨てよ」というわけの分からない張り紙を脇に見ながら、入鹿は先日言われたとおりに左に体を向けた。
「………………私はヤマメちゃんですよ?」
 鳥居の影に立っていたらしい「うつけ」と書かれた画用紙を持った巫女さんと目が合う。巫女と言っても、赤い袴に白い羽織の組み合わせでかろうじて巫女なのだろうと判断しただけだ。
 染めたのではないらしい自然のつやを持つ栗色のオカッパ頭と百三十センチ程度しかない身長は、着物を羽織っていれば座敷童と言われても素直に納得できるだろう。
「えっと……受付……ですか?」
 違ってほしいと願いながら、入鹿は念のために聞いてみた。
「はい、受付のヤマメちゃんなのですよ。面接の方ですか?」
 得意満面な笑みで言葉を返す巫女さんに、入鹿はようやく画用紙に書かれた文字が「うけつけ」の書き間違いなのだと理解し、その巫女さんのかもし出す雰囲気との妙な一体感に小さく肩を落とした。
「えぇ、午後の一時に約束をしていた富士入鹿と言います。磐梯さんに取り次いでいただけますか」
 昨日の電話でのやり取りを思い出し、果たしてちゃんと取次ぎ業務が出来るのか不安になりながらも、入鹿は先日言われたとおりに磐梯の名前を出した。
「はぁい、分かりました。むむむむむむむむむむ………………はい! おっけーです。でんぱを発信したので五分くらいで来ると思うのですよ」
 本格的にイタい人だ、どうしよう。そんな事を思いながら、この難局をどうやって乗り切るべきか入鹿は頭を痛めた。
「待っている間退屈でしょうから、ヤマメちゃんが得意の占いをやってあげるのですよ」
「は、はぁ……じゃあ、まぁ、お願いします」
 それで時間をつぶしても磐梯さんが来るとは思えなかったが、何を言ってもその少女には通じないだろうという雰囲気を感じ取り、入鹿は素直に返事をしてしまった。
「かしこみかしこみ。かしこみかしこみ。自販機の下のじゅーえんは、あなたのものじゃあないのです。勝手にそれを使うなら、地獄でないぞーえぐられろ。はい、でました!」
「……はぁ、で、結果は?」
 ここで突っ込みを入れなかったのは賢明かもしれない。そもそもどこに突っ込めばいいのか分からないし、例え的確に突っ込めた所で望む答えが期待できる筈も無かった。
「昼尚暗き牢獄に鍵を掛けるはそなた自身。嘆き苦しみ後悔すれど其れは己の愚かさが故。安易な道は選ばぬよう。楽を望めば破滅に行き着く」
「……え?」
 それってどういう意味。聞こうとした入鹿だったが、その言葉が口をつくことは無かった。
「お待たせいたしました。磐梯と申します。富士さんですか?」
「え!? あ、は、はい!」
 いつの間に後ろに居たのか、阿蘇と同じ巫女装束を身にまとった――こっちはいかにもしっかり者といった雰囲気の――少女が微笑んでいた。
 長い黒髪は仕事の邪魔なのか、しっかりと頭の根っこで束ねられていた。ポニーテールと言えなくも無いのだろうが、それでも腰近くまで垂れている髪の毛は、少し斬新なヘアースタイルのようにも感じられた。
「全く……。ヤマメ、今日は電波を使うなって言ったでしょう? 地下室は圏外になりやすいんだから、受信できない可能性が高いって言ってるでしょうが」
「はぁい、イワナちゃん。次から気をつけまぁす」
「アンタはいっつもそう言うけどねぇ。守ったためしがないでしょうに」
「えへへ、ごめんなさぁい」
 入鹿は、電波の存在ありきの会話に混乱を隠せない。ここに来てようやく、もしかしてこの仕事がやばいのではないだろうか、とほんの少し感じ始めていた。
「さて、それじゃあ面接を行いますね。ここまで来るのも大変だったと思うのですが、まだやる気はありますか?」
「えぇ、そりゃあもちろん」
 多少の怪しさはあるが、ここまでかかった費用と時間を考えれば、仕事をせずに帰るというのはあまりに馬鹿らしいだろう。入鹿が深く考えずに即答したのも至極当然と言えたかもしれない。
「分かりました。それではとりあえず本殿に向かいましょう」
 そう言うとイワナは、二十メートルほど先にある、みすぼらしいという表現がぴったりの小さな社に体を向けた。
 社や鳥居の修繕さえまともに出来ないこの神社で八万円ものバイト代が出せるのか、普通の神経であれば疑問に思ったところであろうが、入鹿はその事を一切気にせず、磐梯の後ろについて行った。


「まぁ、とりあえずは麦茶でもどうぞ」
 掃除が行き届いているのだろう。意外と小奇麗な本殿の中で、イワナと入鹿は向き合っていた。
「あ、ありがとうございます。頂きます。……それで、面接ですけど」
「あぁ、そうですね。それではご説明いたしますね。富士さんは、このような山奥にある掘化野神社がどうやって生計を立てているか、不思議に思いませんか?」
「そういえば、確かに……」
「実は、この神社には不思議なご神体がおりまして、そのご神体から取れるお薬を売って生計を立てているのです」
「薬……ですか?」
「えぇ、薬草と組み合わせる事で様々な薬効を発生させます。病気の治療薬ですとか、若返りの薬ですとか、あるいは精力剤ですとか」
「はぁ……」
 突然胡散臭い話をされ、入鹿は怪訝そうに言葉を返した。
「しかし、そのお薬を取るのが少し手間でして。そちらの採取を手伝ってほしいのです。いかがですか?」
 薬の存在そのものにはいぶかしさが残るが、それでも五時間で八万円というのはかなり魅力的だ。
「はい、ぜひお願いします」
 入鹿は、深く悩みもせずに即座に言葉を返した。
「ありがとうございます。それでは、続きは目が覚めてからゆっくりお話ししましょう」
「え?」
 直後、急激な眠気に襲われ、入鹿は倒れこんでしまった。
「……即効性とはいえ効きすぎだわね。ちょっと、ヤマメ。言われた通り十倍に薄めたんでしょうね?」
「え? 十倍濃縮じゃなかったっけ?」
「あんた……。まぁ、死にはしないかな。……たぶん」
 薄れゆく意識の中で、入鹿はそんな会話をぼんやりと聞いていた。


 入鹿が目を覚ましたのは薄暗い石室の中だった。手の平に届く冷たい石の感触から、それだけはすぐに判断する事が出来たが、薬の効果でぼうっとした頭ではそれ以上の状況は一切把握できなかった。
「ようやく目が覚めましたか。ご気分はいかがですか?」
 真上から聞こえて来た声に頭を上げると、そこには、鉄格子のかかった天井の隙間から顔をのぞかせるイワナの姿が確認できた。
「凄く……頭が重いです。というか、コレどういう事なんですか? 説明してもらえるんですよね?」
 薬で喉でもやられたのか、やけに掠れた声に違和感を覚えながら、入鹿は顔をしかめながら頭に手を当てた。
「えぇ。でもその前に、まずはご自分の状態を把握して頂けますか」
「自分の状態……」
 言われて自分を見てみると、妙な状況に陥っている事にようやく気がついた。
 天井から届くわずかな光で分かったが、どうやら服を変えられているようだ。神社に来た時は着古しのジーンズによれよれのシャツを着ていた筈なのに、上下ともに妙にゆったりとした絹のような肌触りを感じ取れた。
 それが、上に居るイワナと同じ巫女装束である事に気がついたのは、ジーンズの代わりには居ているのが赤い袴だと気がついたからだった。
「な、なんだよこれ!?」
 ようやくはっきりとしゃべる事が出来た声にも違和感を覚える。甲高く、気色を帯びたその声は、声変わりのしていない小学生かそれとも女性の物としか思えなかった。
 さらにそれを受け入れる間もなく、入鹿は自分の頬にかかる髪の毛が不自然に長い事に気付く。肩にかかるかどうかといったその長さは、全く女性的としか思えなかった。
「え!? 何!? 声に……髪!?」
 入鹿は、咄嗟に自分の胸にその手を持っていった。
「胸まで!? しかもでかい!」
「チッ!」
 直後、上から明らかに舌打ちの音が聞こえて来た。
 そういえばイワナさんは良くてBカップってところだったもんなぁ。等と考えながら、入鹿はようやく状況を把握した。
「女に……なってる!?」
 鏡は無いから顔は分からない。しかし、明らかに小さくなっている手。頬にかかる髪。甲高い声。大きな胸。そして、股間に持っていった手に伝わる、何も無いという感触。
 入鹿は、確かに女になってしまっているようだった。
「気が付いたようですのでお仕事の説明をさせて頂きますね」
 入鹿の戸惑いなど、まるでどうでも良いかのようにヤマメは話を始めた。
「正面をよく見て頂けますか」
「正面?」
 言われて入鹿は、奥の暗闇に向かって目を細めた。薄闇に少しばかり慣れていた目に、うっすらと何かの輪郭が飛び込んできた。
 植物のツル、いや、もっと生々しい、生き物めいた何かがひしめき合っている。様々な太さのヘビ、あるいはミミズとも言える「何か」のようだ。
 意識してみれば、ぬめりを帯びた表皮同士が擦れ合い、グチャリ、ヌルリ、ズルリという気色の悪い音を絶えず出している音源らしい事も感じ取ることが出来た。
「ひ……っ! な、なんです、これ!?」
「そちらが当神社のご神体である、御触手様です」
「お、おしょくしゅさま……?」
「はい。掘化野神社発足より四百五十八年。初代神主である阿蘇ナマズ様が奉った由緒正しきご神体です。先程も言ったように、御触手様から取れるお薬は、薬草と組み合わせる事で様々な効果を発揮する事が出来るのです。あなたを女性化させたのも、その秘薬によるものなのですよ」
 何の冗談かとあしらう事が出来れば楽だっただろう。しかし、現実に体が女に変化しているという事実を突き付けられ、入鹿は何も言う事が出来なかった。
「それでですね、ちょっと言いにくい事なのですが、そのお薬と言うのが御触手様のいわゆる精液でして。人間の女性をあてがわないと、採取が出来ないのですよ」
「精……液?」
「えぇ、普段は人化薬を適当な動物に飲ませてあてがっていたのですが、手違いで薬をすべて切らしてしまいまして。新しい薬を作ろうにも、あいにく予備の原薬も切らしてしまったのです。幸い女体化薬には在庫がありましたので、止むを得ずこうして広告を打った次第なのですよ」
「ふ、ふざけんな!」
 今から自分に待っている運命を悟った入鹿は、怒りにまかせて声を張った。
「大体なんでそこで男を募集するんだよ!」
 至極もっともな疑問だ。
「犯罪者にはなりたくありませんもの。男の方ならレイプにはならないでしょう?」
「なるわボケ! ていうか自分でやれば良いだろうが!」
 やっぱり至極もっともな疑問だ。
「そんな、神聖な御触手様に触れるなど気持ちわ……恐れ多くてとてもとても」
「本音がもれぬお!?」
 入鹿の叫びは最後まで言い切られる事なく終わった。何かに右足を掴まれ、勢いよく引っ張り倒されてしまったのだ。
「あらあら、早速気に入られたご様子ですね。いつものうーうー唸るだけの人間もどきと違うから興奮しているのかしら」
 自分の足を掴んでいる物の正体を見て、入鹿はぎょっとした。いつの間に伸びて来たのか。触手の一本が足首に絡みついていたのだ。
「うわっ! ちょっ! 離れろ!」
 咄嗟に反対の足で蹴り解こうとしたのが失敗だったのだろう。入鹿が何も考えずに思い切り振りおろした瞬間、どこから伸びて来たのか、もう一本の触手が左足に絡んできたのだ。
「うん、これならたくさんお薬が取れそうですね。それじゃあ、終わったころに様子を見に伺いますので頑張ってくださいね」
「いーやーだー! はーなーせー!」
 その叫びは届かない。もう入鹿の視界にはイワナの姿はないのだから。

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